未来の価値

第 11 話


僕の目の前で居心地悪そうにベッドに腰掛けている彼は、明らかに肩を落とし項垂れていた。そんな彼の目の前に仁王立ちし、呆れたように息を吐く。

「何となくおかしいなとは思ってたけどさ、無理するからこういう事になるんだよ?」

叱りつけるように言えば、目の前の彼は羞恥からだろう、うつむいたまま耳まで赤く染めていた。こういう所も変わってないなと、少し安心してしまう。

「人に隙を見せるのを嫌う君が、あんな堂々と僕に添い寝させたり、疲れたとか調子悪いとか口にしたり、寒いからって抱きついてきたり、」
「いい!もうそれ以上言うな馬鹿スザク!!全部覚えている!!」

聞きたくないと、スザクの発言を遮りながら、ルルーシュは真っ赤に染まった顔をあげ、怒ったように睨みつけてきた。その両手は、これ以上スザクの発言を聞きたくないと、両耳を塞いでいる。涙目になっているそんな顔で睨まれても、全く怖くはないよとは言えず、スザクは再び息を吐いた。

そう、おかしな話だったのだ。
怪我をしようと、具合が悪かろうと、いじめられようと、ひどい差別を受けようと、常に平静を装い、弱っている事など見せないのがルルーシュだ。
7年たったからと言って、それが変わるとは思えなかった。
警戒心も強く、暗殺を恐れる彼が他人が居る場所で・・・スザクとナナリーは別として、眠れないのもそう簡単に変わるとは思えない。
だが、先ほどルルーシュは眠いからとスザクを頼り、無防備な状態で甘えてきた。
そう、甘えてきたのだ、あのルルーシュが。
あり得ない事だった。
頼られるのも甘えられるのも凄く嬉しいが、ルルーシュらしくない。
自分の中のルルーシュらしさは、7年前のイメージで作られたものであったが、今こうして話しているルルーシュを見て、その辺のイメージは間違っていない事は確定事項。
だからルルーシュらしくないと自信を持って断言できる。
では、どうしてこんなに羞恥で赤くなるほどの行動をしてしまったのか。
原因は解っている。
極度の疲労と睡眠不足だ。
心身ともに疲れきっているのに、1日30分も眠れない。
その30分だって本当に寝ていたのかも怪しい。
横になっただけ、目を閉じていただけの時間もカウントしているかもしれない。
そんな状態で視察に来て、渡された資料に目を通している中、パイロットのデータでスザクがここにいる事を知ったのだ。極度の疲労の中、安心できる人物を見つけ、そこからは思考が完全に暴走したのだろう。

眠りたい。
休みたい。
警戒を解きたい。

様々な思いが湧き上がり、睡眠不足と疲労で鈍くなっていた脳は、それらの体の欲求に従うという、ルルーシュらしからぬ選択を選んだ。
理性的であろうとするルルーシュが、睡眠欲に負けたのだ。
安心できる場所と、暖かな体温の効果もあり、久々に熟睡して脳がすっきりとしたルルーシュは、自分が行った暴挙の数々を思い出し、その上多くの人間にそれらを見聞きされたことで、こうしてひたすらに羞恥心を募らせているのだ。
だからスザクが言える事は決まっている。

”ちゃんと休まなかったルルーシュが悪い”

それに尽きる。
これに懲りて、ちゃんと休んでくれればいいのだが。
シンジュク事変から10日。
聞けば皇室に戻されてまだ1週間だというのに、これなのだ。
この先が心配で仕方がない。

「・・・でも、ちゃんと眠れたみたいでよかったよ。顔色もよくなっているし、もう寒くないみたいだね」

よく見たら目の下にクマがあるが、流石にこの短時間では取りきれない。
それでも、熟睡したことで張りつめていた神経と、疲れきっていた脳を休める事が出来たため、体調不良も改善されていた。
寝れば治る。
その言葉に間違いはなかったらしい。

「すまなかったな、迷惑をかけた」
「この程度、迷惑なんて思わないよ。それよりそろそろ着替えようか」

時計を見ると、ルルーシュが視察を終える予定時間は残り40分。
20分以内に身だしなみを整えて移動し、ランスロットの話を20分。
ぎりぎりの時間だ。

「そうだな。ああ、お前の服も勝手に借りてしまって・・・」

いつものルルーシュならスザクの狸寝入りに気づけただろうが、あの時のルルーシュはスザクが起きている事には全く気付いておらず、皇族服を皺にしたらまずいと、スザクの許可なく服を借りる選択をした。

「気にしないで、僕のものは好きに使っていいよ。それより着替え、手伝った方がいいのかな?」

皇族服って一人で着れるものなの?

「大丈夫だ」

普通のスーツと大して変わらない。

「じゃあ、僕一度部屋の外に出るね。多分、君の護衛で来た方たち、外で待ってるだろうから、君が起きたことも伝えないとね?」
「・・・そうだな」

ルルーシュが頷いたのを見て、スザクは部屋を後にした。

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